西側はどのようにしてウクライナに戦争をもたらしたか…稲村公望氏の論考


私が注目してきたシカゴ大学ミヤシャイマー教授やダグラス・マクレガー元トランプ政権国防総省アドバイザーたちが高い評価を下している昨年末出版された”How the West Brought War to Ukraine(西側はどのようにしてウクライナに戦争をもたらしたか)”。

稲村公望氏が、「月刊日本」の対談を引用して鋭い論考を行っている。

この対談は、パノフ元駐日ロシア大使と東郷和彦氏との間で行われたが、その中で、アメリカ人のベンジャミン・アベロウ氏( Benjamin Abelow の同書を紹介している。

現在、欧米プロパガンダとはまるで違う見方を詳しく事実を引用しながら書かれているので説得力がある。

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稲村公望

6時間  · 

世界が注目するベンジャミン・エイベロウの卓見

稲村公望

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■戦争責任は誰が取るのか

「月刊日本」の令和5年7月号は、パノフ元駐日ロシア大使と東郷和彦氏の対談を掲載したが、その中で、アメリカ人のベンジャミン・アベロウ氏( Benjamin Abelow 以下、自身が語る音声に従って、「エイベロウ」とする)の話題の著作『どうやって西側はウクライナに戦争をもたらしたか』(How the West Brought War to Ukraine)が紹介された。「アメリカがロシアを締め上げ、ロシアに脅威を与えていった経緯を説得力をもって描いている」との東郷氏のコメントがあり、筆者は早速取り寄せた。全体で僅か80ページたらずの冊子で、自家出版に近い体裁であるが、既にドイツ語、イタリア語やスロヴェニア語にも翻訳されて、ヨーロッパでも読まれているらしい。現在日本語訳はないので、まずは、簡単に要旨をご紹介したい。

モンロー主義とは米国の外交政策の重要な柱であり、これに従えば、米国は西半球防衛の為には、外国の介入や侵略に対して、ためらわずに参戦開戦することになる。ところが、米国はロシアとの関係では、モンロー主義の原則を当てはめようとはしない。ロシアが、ウクライナに侵攻したのは、米国とNATO諸国に干渉され、モンロー主義と同じ理屈で、「ロシアを防衛する戦争」に乗り出した可能性が高い。東西ドイツの統一の過程で、ソ連は、約40万の兵力を東ドイツから引き揚げた代償として、NATOが東方拡大はしないとゴルバチョフ大統領に約束したことは、確かに条約にはならなかったが、各国の覚え書きにその旨が記載されている。

ロシアのウクライナ侵攻があって、米国はウクライナ防衛のみならず、ロシアを弱体化する目的を加えた。米国がロシアとの直接対決をも辞さない方針を明らかにしたために、プーチン大統領はウクライナ侵攻の三日後、核戦力部隊を展開させた。西側は、プーチン大統領をヒトラー呼ばわりするばかりで、停戦・和平交渉を提案する機運はなく、むしろ危機を喧伝。そればかりではなく、親露派のウクライナ大統領を内政干渉で放逐したり(マイダン革命)、NATO軍とウクライナ軍との共同軍事演習を頻繁に実施するなど、西側の挑発があった。 

 プーチン大統領によるクリミア併合は、米国のウクライナに対する内政干渉に反発する受け身の現象であった。しかし、米国政権はこれが西側の挑発に対する対応であることを理解しなかった。

ロシアは、ウクライナがNATOに加盟しないことと、東ヨーロッパに展開する軍事施設の撤去を合意文書にすべく、米国に要求したが、ブリンケン国務長官はこれを一蹴する。ロシアがウクライナに進軍するのはその回答があってから、一ヶ月後のことであった。

 NATOの東方拡大に警鐘を鳴らした人物は多い。封じ込めを柱とする対ソ連戦略を主導したジョージ・ケナン氏は、冷戦後の最大の失敗だと指摘した。マクナマラ元国防長官、ロシア近現代史が専門のリチャード・パイプス氏、ポール・ニッツェ海軍長官(後に国防長官)、ジャック・マットロック元駐ソ連米国大使、国防長官からCIA長官を務めたロバート・ゲイツ氏等々。シカゴ大学のミアシャイマー教授は、米国とNATOの対ロシア敵視政策は、宣戦布告に近い措置と、プーチン大統領に思われても仕方がないと述べる。

そして、誰が責任をとるのか。被害を受ける無告の民がいる。世界大戦になれば誰の責任になるのか。ウクライナに侵攻したプーチン大統領に責任の一端があるのは当然だが、NATO諸国はもとより、特に米国に責任があることは間違いない。

当事者のウクライナにも責任がある。ゼレンスキー大統領は、NATOに加盟しないと言明するだけでロシアとの対立を解消するきっかけを作れたが、それをしなかった。ロシアが侵攻する5日前の2月19日、ゼレンスキー大統領は、ミュンヘンでドイツのショルツ首相に面会している。ショルツ首相は、中立を宣言して、ウクライナの安全を、バイデンとプーチンの両者で保障することを提案したが、ゼレンスキー大統領はこれを断っている。ウクライナはNATOに加盟しないと発言しさえすれば、ロシアの侵攻はなかった。

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■漁夫の利は中国か

筆者は、米国の友人に電話をして、ウクライナを巡る米露対立で漁夫の利を得ているのは、中国ではないのか、と質問を投げかけた。彼としては否定したかったところだろうが、これを暗に認め、次のように続けた。「確かに、ロシアに対する経済制裁は全く機能していない、ロシアも中国も痛痒を全く感じていない」と。穿った見方になるが、ブッシュ政権以来、米中関係は密月の関係を続け、今の中国の繁栄は、米国の支援と日本からの資金供給によって作り出されたとも言える。バイデン政権は、トランプ政権と違って親中の気配を色濃く残している。最近の国務長官の訪中もその証左で、日中を天秤にかける政策を続けている可能性はないかと、その友人に尋ねたが、明快な反応はなかった。東アジアで、日本がウクライナの役割をさせられることだけは避けたい。友人に、米国は日本とチャイナを天秤にかけることをやめるべきで、「日本抑止・弱体化の『瓶の蓋論』はいらない」と指摘しておいた。Strong Japanを支持する友人は、最後に日本の諺を使って、「貴方の意見は、井戸の底で叫んでいるようだ」と言うので、「井戸の底からも青空が見える」と言葉を返しておいた。

 第31代フーバー大統領がその回想録で、第三次世界大戦に至る「龍の爪」をばらまいた可能性があるとも酷評した事例がある。大東亜戦争で日本に勝利した米国の民主党政権は、毛沢東に大陸を、蒋介石には台湾を日本から引き剥がして渡したのだ。サンフランシスコ対日講和条約は台湾の帰属を明らかにしなかった。昨年5月23日のダボス会議で、米中国交回復の立役者であったヘンリー・キッシンジャー博士が、「ロシアにクリミアとウクライナ東部二州を割譲する和平案」と、自らが後押しをしてきた「ひとつの中国論」を反故にするか、少なくとも見直しを提案して話題となったが、米国の外交評議会では、対中戦略の見直しを図っている可能性が高い。「ひとつの中国論」には、大陸と台湾の紛争対立を固定化する意図もあるので、旧宗主国としての日本は、米国の「ひとつの中国論」に単純に加担するわけにはいかない。日本が支援するのは、台湾人の台湾であり、毛沢東の中国、蒋介石の台湾という構図の国共内戦の一方に荷担してはならない。

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■核戦争回避に向けて動け

台湾危機では、代理戦争のお先棒を日本に担がせたい勢力がワシントンを闊歩しているように感じる。大東亜戦争の時、米国は羊飼いの犬のように日本を戦争に追い込んでいった先例がある。真珠湾奇襲攻撃は、日本に対してしかけた罠に、軍指導部が嵌められたのであって、対日石油の禁輸がすでに宣戦布告と同様であったと、フーバー大統領は回想録に書き残している。その回想録は、47年間も秘匿されていた。しかしウクライナ戦争においては、NATOの東方不拡大の約束は秘匿にされていたわけではなく、各国の外交文書の覚書として残されているのだ。またエイベロウ氏は、ソ連の崩壊後、米国が核戦略と連動してロシアを追い詰めていく政治外交過程を活写している。 米国を代表するロシア通のジョージ・ケナン氏が、「ソ連と新生ロシアを混同してはならない」としたこと、名だたる米国の有識者がこぞって東方拡大に反対した事実を列挙している。

このエイベロウ氏の小冊子には、1962年のキューバ・ミサイル危機のきっかけは、米国がトルコにジュピター核弾頭ミサイルを配備したために、それにフルシチョフのソ連が対抗してキューバにミサイルを持ち込もうとした事件であることが詳らかに書かれている。まず、ロシアがキューバから撤退、その後に米国がトルコから秘密裏に撤退したことを明らかにしている。米ソ核戦争を回避しようと、フルシチョフ首相と密なバックチャンネルを維持していたケネディ大統領の叡智が再評価されることになったとし、同時に、バイデン政権は、プーチン政権とのパイプに欠けているとも指摘している。

米国が、ブッシュ・ジュニア政権になってから、核の先制攻撃論を採用して、戦略を変更したとの指摘は重大だ。エイベロウ氏は、核兵器の管理問題について詳しい人物で、キューバミサイル危機の裏話などの指摘は、この小冊子を新鮮な著作にしている。核戦争になりかねない状況を回避するための論文のように思える。類書はあまりない。

第二次世界大戦の後に、国際拝金勢力によって、東アジアに撒かれた「龍の爪」を剥がすためにも、ベンジャミン・エイベロウ氏の著作は、小冊子ながら役にたつだろう。日本語に、迅速に完訳されることが期待される由縁だ。

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