稲村さんの意見に同意します。
.
稲村公望
オリジナル投稿 ·
.
民泊制度という「制度横断の盲点」―中国社会の行動様式と日本行政の脆弱性
稲村 公望
.
日本各地で、民泊をめぐる軋轢が静かに、しかし確実に蓄積している。問題は、観光客が増えたことそれ自体ではない。より本質的なのは、**民泊制度が、日本社会の制度設計では想定されていなかった形で「横断的に利用」されている**という事実である。
とりわけ顕著なのが、中国人観光客および中国系事業者を中心とした民泊運営のあり方である。本稿は、特定の国籍や民族を非難することを目的とするものではない。問題はあくまで、**異なる社会で形成された行動様式と、日本の制度的脆弱性が結合した結果として、民泊制度が歪められている構造**にある。
—
### 1.「違法」ではなく「制度の再編成」が起きている
現在、日本で見られる民泊問題は、単純な違法営業の多発ではない。
* 不動産の取得・転用
* 民泊としての短期滞在運営
* 送迎・移動(白タク的行為)
* 多言語・独自決済による囲い込み
これらが**個別に存在するのではなく、連動して機能している**点に、従来とは異なる性格がある。
行政は、不動産は不動産、宿泊は宿泊、交通は交通として縦割りで監督する。しかし実態では、これらが**一体のビジネス・生活圏として再構成**されている。言い換えれば、これは違法行為の集積というより、**制度の“使い替え”**である。
—
### 2.中国社会における「制度横断的行動様式」
この現象を理解するためには、中国社会において培われた行動様式を冷静に見なければならない。
中国社会では、歴史的に、
* 国家制度は固定的な規範ではなく、状況に応じて調整・回避されるもの
* 法は絶対的基準というより、交渉可能な枠組み
* 同郷・同族・同言語ネットワークが制度以上に信頼される
という環境が長く続いてきた。
その結果、**複数の制度を横断的に組み合わせ、自らにとって最適な運用形態を構築する能力**が高くなる。これは倫理の問題ではなく、**生存と合理性の問題**として身についた行動様式である。
日本人が制度を「守るもの」として内面化してきたのとは、根本的に発想が異なる。
—
### 3.日本社会の側にある「理解不能性」
問題を複雑にしているのは、日本社会がこの行動様式を**想像すらしていなかった**点である。
日本の行政制度は、
* 善意の遵守を前提に設計され
* 制度の趣旨を共有することが暗黙の前提となり
* 想定外の横断利用には極端に弱い
という特徴をもつ。
そのため、制度が「悪用」されているというより、
**制度の前提そのものが別の文化的文脈で読み替えられている**事態に直面すると、行政は対応できなくなる。
結果として、
> 違反か合法かを個別に判断している間に、
> 実態としては、地域全体が特定の経済圏に組み込まれていく
という事態が生じる。
—
### 4.民泊制度は「接点」として選ばれた
なぜ、その接点が民泊制度だったのか。
理由は明白である。
* 観光振興という大義名分
* 規制緩和を歓迎する政治的空気
* 地方自治体への責任転嫁
* 監督権限の分散
民泊制度は、日本行政における**最も管理が曖昧で、かつ政治的に批判しにくい領域**となった。
そこに、制度横断を得意とする行動様式が流入したとき、摩擦が起きないはずがない。
—
### 5.これは「排外主義」の問題ではない
ここで強調すべきは、この問題を**感情的な排外主義に矮小化すべきではない**という点である。
問題の本質は、
* 日本の制度が、異なる行動原理を持つ主体に対して無防備であること
* 国家としての統治設計が、グローバル化に追いついていないこと
にある。
民泊をめぐる混乱は、**日本国家の統治能力そのものを映し出す鏡**である。
—
### 6.政策提言――「一元化」と「前提の修正」
最後に、政策的観点からの提言を簡潔に示したい。
第一に、
**民泊・不動産・交通を横断する監督権限の一元化**が不可欠である。
縦割り行政のままでは、制度横断型の利用に永遠に後手に回る。
第二に、
**「善意の遵守」を前提とした制度設計からの脱却**である。
異なる社会的行動原理を前提にした制度設計こそが、真の国際化である。
第三に、
**地域住民への実質的な拒否権の付与**である。
観光振興は、地域の生活秩序を破壊してまで進めるべきものではない。
—
### 結語
民泊制度の問題は、中国社会の行動様式を「批判」することでは解決しない。
問われているのは、**日本が、自国の制度を守り、運用し、再設計する意思を持っているのか**である。
制度を軽んじた国家は、いずれ制度によって守られなくなる。
民泊問題は、その予兆にほかならない。