私も長くフォローしているジャッジ・ナポリターノの常連ゲストのミアシャイマー シカゴ大学教授。リアリズムから分析する地政学の大家。
ファウンテン倶楽部 中村哲也シニアフェロー
Judging Freedomの本インタビューで John Mearsheimer 教授は、現在の国際情勢を「すでに冷戦2.0の時代に突入している」と位置づけ、その中核にあるのは米中・米露関係の構造的対立であり、個々の指導者の意図や善悪ではなく、国際政治の力学そのものが対立を生み出していると強調する。彼の基本的な立場は一貫したリアリズムであり、理想論や道徳論ではなく、国家が安全保障上どのように行動せざるを得ないかという視点から世界を見ている。
まず議論は、米国によるイラン攻撃の可能性から始まる。ミアシャイマーは、仮に攻撃が行われる場合、イスラエルは前面に出ず、米国が単独で攻撃する可能性が高いと分析する。その理由は、イスラエル自身がイランからの大規模な弾道ミサイル攻撃に耐えられる防空能力を持っていないためであり、実際に2026年1月14日の危機の際には、イスラエル側から米国に対して「攻撃を控えてほしい」と要請があったと指摘する。イランは、たとえ米国単独の攻撃であっても、イスラエルを含めて報復すると明確に警告しており、ホルムズ海峡封鎖や中東の米軍基地攻撃も辞さない構えだという。
トランプ大統領の姿勢について、ミアシャイマーは「発言は極めて好戦的だが、実際に達成可能な軍事的目標が存在しない」と評価する。表向きには核放棄やミサイル削減といった要求が語られているものの、それらはイランが受け入れるはずがなく、真の目的は体制転換(レジーム・チェンジ)と国家の混乱・分断にあると断じる。しかし、2025年末から2026年初頭にかけて起きたイラン国内の抗議運動が沈静化したことで、米軍自身が「決定的な勝利は保証できない」と大統領に伝え、攻撃を思いとどまらせた経緯があるという。限定的な「一日攻撃」で面子を保つ選択肢も理論上は考えられるが、イランはそれでも全面的に報復すると明言しており、結果的に短期戦で逃げ切ることは不可能だと述べる。
イランとイスラエルの軍事力についても、ミアシャイマーは冷静な評価を下す。両国とも防空能力は決して盤石ではない一方で、相手国の本土に甚大な被害を与える攻撃能力は非常に高い。つまり、戦争になれば双方が深刻な打撃を受けることは避けられない。にもかかわらずイランが米国の主要な敵とされている背景には、純粋な米国の国益ではなく、イスラエル・ロビーが米国の中東政策に与える強い影響があると指摘する。1990年代には米イラン関係改善の芽が存在したが、それは政治的圧力によって摘み取られたという歴史認識が示される。
ロシアと中国の関与については、両国がイランを直接軍事的に支援する可能性は低いとしつつも、情報・技術・諜報面での支援は行われていると見る。特にイラン国内でStarlink通信が遮断された事例については、中露の協力があった可能性を示唆し、これは「直接介入」とは異なる形での支援だと説明する。
議論はその後、ウクライナ戦争へと移る。ミアシャイマーは、戦争は「会議室ではなく戦場で決着する」との立場を崩しておらず、アブダビで行われている和平交渉についても「実態のない茶番」だと切り捨てる。ロシアの要求と、ウクライナや欧州が受け入れ可能な条件の間には共通点がなく、「合意は90%できている」といった西側報道は現実と無関係だという。ロシアは交渉に応じる姿勢を見せることで、戦場と並行して行われている宣伝戦(プロパガンダ戦)で有利な立場を確保しようとしているに過ぎないと分析する。
そこから本題である冷戦2.0の整理に入る。ミアシャイマーは、米中関係についてはすでに「冷戦」と呼ぶべき段階にあり、それは避けられない構造的現象だと述べる。ただし重要なのは、冷戦と熱戦を区別することであり、最大の目標はこの競争が直接的な大戦争に発展しないよう抑制することだと強調する。一方、米露関係については、バイデン政権下では冷戦を超えて「準戦争状態」に近かったとし、トランプが関係改善を試みている点自体は評価するものの、戦略的に一貫性と巧妙さを欠いていると批判する。
最後に欧州とNATOの問題が語られる。仮に米国がNATOから実質的に撤退すれば、欧州諸国は自力で安全保障を確保せざるを得なくなるが、集団行動の失敗により統一的な抑止戦略を構築することは難しいと予測する。NATOは単なる軍事同盟ではなく、EUが機能してきた前提条件でもあり、米国という「安定装置」が外れれば、欧州の安全保障だけでなく経済・政治統合そのものが大きく揺らぐと警告する。
全体を通じてミアシャイマーが伝えている核心は、冷戦2.0はすでに始まっており、それ自体は避けがたいが、熱戦に転化させない選択肢はまだ残されているという点である。そのためには、イデオロギーや感情的な敵視ではなく、現実主義に基づいた抑制と戦略的判断が不可欠だ、というのが本インタビューの結論である。