米国のベネズエラ大統領マデゥロ氏の身柄拘束と米国移送に関して、欧米日のメディアでも大きく報道されている。
この事件は、米国が裏庭とする南米での中国の経済覇権拡大以外にも、巨大石油埋蔵量の行方や、その決済通貨はじめいくつもの複雑な要因が絡み合っている。
政治、経済、軍事、エネルギー、地政学などいくつもの分野の専門家たちが様々な知見をのべている。
今後、私が注目している論者の意見を紹介していきたい。
第一弾は、Economic Warningより。
ポイントは以下3点
1 ベネズエラの膨大な石油埋蔵量と誰がそれを支配するか
2 石油決済通貨と、何が将来の原油取引を決定するか
3 中国の中南米における急拡大する経済的支配と、米国の戦略
従来の国際法秩序に照らせば、主権国家に対して武力を用い、その国家元首を国外に連行し、第三国の司法制度の下で刑事責任を追及する行為は、原則として国際法上の正当性に重大な疑義が生じる行為である。自衛権、国連安全保障理事会決議、当該国家の同意といった従来の正当化根拠のいずれに基づくとしても、説明は容易ではない。
しかし同時に、今回の事案は「国際法上正当であったか」という問いとは別に、「国際政治の現実として、なぜ起き、何を意味するのか」という観点から整理する必要がある。
国外に連行されたベネズエラ前大統領は、長年にわたり権力を集中させ、選挙制度の形骸化や人権侵害を理由に国際的な批判を受けてきた。国際社会はこれに対し制裁や外交的圧力を重ねてきたが、体制そのものを変えるには至らなかった。この点において、主権尊重を基軸とする国際法秩序が、独裁体制下で苦しむ国民を実効的に救済できなかったこともまた、否定しがたい現実である。
トランプ政権が示してきた戦略的外交・安全保障方針は、西半球における米国の影響力回復を最優先課題とし、中国およびロシアの浸透を排除することを明確に掲げている。経済・外交的手段に加え、軍事力を含む強制的手段を用いることを躊躇しない姿勢は、従来の抑制的介入政策からの明確な転換を示している。
ベネズエラは、世界有数の原油埋蔵量を有し、かつては親米政権の下で米国の影響圏にあった国家である。それが現在では、中国との経済的結び付き、ロシアとの軍事・安全保障協力を通じて、競合大国の拠点化が進んでいる。こうした状況を米国が自国の安全保障環境に対する直接的な挑戦と捉えた可能性は高い。
米国側の公式説明では、今回の行動は政権転覆を目的とする軍事介入ではなく、麻薬密輸などの重大犯罪で起訴されている前大統領個人の身柄確保を目的とした限定的作戦であると位置付けられている。実際、前大統領に対しては、2025年1月のバイデン政権末期においても高額の懸賞金が設定されるなど、長年にわたり逮捕が政策目標として維持されてきた経緯がある。
このように見ると、今回の事案は「国際法の既存ルールを適用した結果」として理解するよりも、むしろ「既存のルールが機能しないと判断した覇権国が、力によって秩序の再設定を試みた事例」として捉える方が、現実に即している。
その意味で、これは正当性を確立した行動というより、国際秩序が規範中心から力中心へと再び傾斜しつつあることを示す象徴的な出来事であり、今後同様の事例が拡大する可能性を示唆するものでもある。評価は今後の国際社会の反応と帰結を見極めた上で行われるべきであり、少なくとも現時点では、是非を断定するよりも、その戦略的意味と波及効果を冷静に分析することが求められる。
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