テレグラム創業者の逮捕


非常に重要な指摘です。

オリジナル記事

畏友下斗米伸夫教授による論説

テレグラム創業者の逮捕

ドゥーロフ逮捕の理由

ロシア発の秘匿性の高い通信アプリ、テレグラムの創業者バーベル・ドゥーロフが24日(注、2024年8月)、パリで逮捕された。理由は薬物や人身売買などの犯罪への監督責任というが真因は不明だ。直前にバクーでプーチン大統領に会おうとした形跡もあるが、表現の自由への干渉という批判もあってフランスでは一応保釈された。

 電報は19世紀前半米国で開発されたが、これを軍事的に利用したのはクリミア戦争時、英軍がはじめたという。それが約160年後のクリミア併合時にロシア人が西側にもない秘匿性を誇るテレグラムを開発すると国籍に関係なく使われ出した。

ウクライナ戦争とテレグラム

 なかでも広がるきっかけとなったのはウクライナ戦争、敵味方に関係なく多目的で便利なツールとなった。9億人が利用するというが、なかでもウクライナでの利用は戦争前2割だったが、今や7割を超えた。開発にはウクライナ人も関与、また戦争関係者やジャーナリスト、研究者も立場の異なる各種情報のプラットフォームとして不可欠となっている。兵士だけでなく家族や恋人、政治家や技術者もこれによって通信の秘密を確保した。

 このような独立メディアに政治権力が敵意を示すのは、ロシアのプーチンから仏のマクロンまでか変わらないようだ。ドゥーロフが開発した時、プーチンは「インターネットはCIAの武器」と圧力をかけたと英国の政治学者サクワはいう。もっともテレグラムはコロナ期には社会的に有用だとして圧力が緩和された。プーチンは利用しないが、ゼレンスキーは発信に利用するようだ。

ポスト真実の戦争

 この戦争初期、BBCやCNNなど西側の「真実」のメディアがロシアで自由になったら、ロシア宣伝の効用が減り、反政府運動が生じるという説もあった。しかし、ロシア事情に詳しい英国のマシューズは、テレグラム人気について、「真実へのアクセス」としてテレグラムを利用するのではなく、信じたいことを信じるからこそバイアスのある媒体を信じるのだと指摘する。敵味方に関係なく暗号や陰謀といった秘匿の世界に没入できる。

 何より検閲を恐れずに利用できるから、兵士たちは家族や恋人、仲間に戦場のリアル、戦場の悲惨さも怖さも速報でテレグラムが伝えた。欧米から提供されたばかりのF16が8月29日に撃墜されたことはウクライナ軍がテレグラム・ポストで報じた。問題は、その理由。与党議員でありながら今は批判派のマリア・ベズウグラヤが友軍の射撃を示唆、痛烈に批判した。とくに、パトリオット・ミサイルで撃墜されたと報じられたことから、空軍司令官解任の大騒ぎになった。そうでなくとも、戦略上の要衝ボクロフスクやウグレダルが陥落寸前、NATO支援の政府軍が撤退しだしたことは即座に伝わる。

国家とクラウド帝国

だからその開発者ドゥーロフがロシアではなくフランスで逮捕されたということが世界を驚かせた。彼こそ東西双方から自由な「グローバル化の寵児」だったから、フランスの特務機関に敵視された、とウクライナの反政府系ネットCitrana.comの評論員は指摘する。戦争が終わっていなかったことの悲劇だと。自由を求めるメディアと国家との相克は永遠のアポリアなのか。それとも東西いずれの国家も「クラウド帝国」の象徴であるテレグラムに持つ敵意の表れなのだろうか。

下斗米教授の了解を得て、以上掲載した。

畏友下斗米伸夫(しもとまい のぶお)氏は、法政大学名誉教授、日本の代表的なロシア専門家である。

コメントを残す